人間の嗅覚は実は犬並み!?
今年も残すところ、ほんのわずかとなりました。あなたのこの一年を漢字一字で表すと何になりますか?コロナ一色のしんどい一年でしたので、良い意味の漢字を思い描く方は少ないかもしれませんね。
そんな陰鬱とした2020年に光をもたらしてくれたある男の子の“鼻”の話から今回は始めましょう。
今、大ブームの『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎は、匂いで邪気や感情を嗅ぎ分ける能力を持っています。ここまでの嗅覚は無理だとしても、人間で、例えばイヌ並みの嗅覚を発揮する…というのは現実にあり得ることなのでしょうか?
これに関しまして、人間は実はイヌにも負けない嗅覚を持っているのではないか…という説があります。それによると、嗅覚の情報処理に関わる『嗅球』という脳組織が脳に占める割合で言えば確かに他の動物よりも低いそうですが(人間:0.01% マウス:2.00%)、嗅球の神経細胞の数を調査したところ、人間と動物との間に差はあまりなかったそうです。また、人間は1兆種類もの香りを嗅ぎ分ける能力がある、とする論文もあり、本来の能力で言えば、人間の嗅覚も動物に負けず劣らず非常に優秀なものだそうです。
にも関わらず、警察犬や麻薬取締犬、また、トリュフの採取にブタを役立てたりと、人間はことあるごとに動物の嗅覚を頼りにしており、そこにはやはり明確な差があると言わざるを得ません。それは何故なのしょうか?
それには主に2つの理由が考えられるそうです。1つは、『匂いとの“距離”の違い』です。例えば地面から発せられる匂いを嗅ぎ取る場合、地面から離れれば離れるほど匂いは薄まり、嗅ぎ取りにくくなります。イヌが鼻づらを地面に近付けて匂いを嗅ぎ取ろうとするのはこの為で、二足歩行である人間は、四足歩行であるイヌなどと比べて地面近辺の匂いをどうしても感じにくいのです。
もう1つは、『匂いに対する“学習の度合い”の違い』です。いくら匂いを感じ取れていても、それを正しく「認識」出来ていなければ、「嗅ぎ分ける」ことは難しいと言えます。そして、特定の匂いに対して触れる機会を増やし、匂いのデータベースを充実させる(つまり“学習する”)ことで、その匂いを嗅ぎ分ける能力が高まるというのは、人間であろうと動物であろうと同じだということです。確かに、警察犬と言えど何の訓練もなしに行方不明者や犯人の捜索に出動する訳ではなく、訓練を経てこそ活躍出来るのです。一方で、例えば一流のソムリエはワインの匂いを細かに嗅ぎ分けることが出来ますが、普通のイヌにそのような芸当は到底出来ません。これらは“学習”の賜物によるところが大きいのです。
この説に基づくと、人間と動物との嗅覚の違いは、単純な能力差ではなく、能力を適材適所で発揮しているが故の違い…とも言えそうです。
今年も一年、ありがとうございました。世界中が安心を取り戻す2021年になりますように祈りつつ、来年もどうぞよろしくお願い致します。
参考資料:
・John P. McGann:Poor human olfaction is a 19th-century myth, Science(May 12, 2017)
・Sarah C. P. Williams:Human nose can detect a trillion smells, Science(Mar. 20, 2014)