もし世界から香りが消えたなら・・・

もし世界から香りが消えたなら・・・01

休日に外出先で何度もくしゃみをしながら、春の訪れを感じています。

『世界から猫が消えたなら』という、映画化もされた小説がございますが、今回はそれにならって「もし世界から香りが消えたなら・・・」というテーマでお送りしたいと思います。

まず思い浮かぶのは“味覚”への影響です。以前、「鼻で味わう?」という内容でご紹介したように、味を感じる上で香りや匂いは非常に重要で、これがなければ満足に食べ物の味を識別することは出来ないのです。ましてや、イヌやクマ、ゾウなどの動物は、エサを自ら探さねばならず、人間以上に嗅覚に頼っている動物ですので、「香りがない=嗅覚が使えない」となると、ただでさえ厳しい自然界で生き抜くことは大変な困難を伴うことになるでしょう。

では、植物の場合はどうでしょうか?鼻を持たない植物には特に影響がないのでは・・・と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。植物にも香りに応答する能力が備わっており、これを“アレロパシー”と呼びます。アレロパシーとは、周りの植物の生長を妨げる化学物質などを放出することで、優位に栄養源を確保しようとする、植物にとっての生存戦略の1つです。平穏な環境や、畑などの人工的な栽培環境ならともかく、高山や極地といった過酷な環境では、植物もまた生き抜くことに精一杯なのです。つまり、他の植物と栄養を奪い合う中で、香りがなくなることは致命的とも言えるのです。また、植物によっては、動物や昆虫によって自身が食害を受けると特定の化学成分を放出し、それを同種の植物が受け取ることで動物や昆虫が嫌がる成分を作り出し、種を維持しようとするものもあります。そのような状況下で香りがなくなると、その種の植物は、言わば“食べられ放題”となってしまう可能性があるのです。加えて、自身の花粉をより遠くに運んでもらえる昆虫や鳥たちとのコミュニケーションが取りにくくなることも、植物にとっては大きな損失と言えます。

このように様々な影響が考えられますが、一方で、生物はこれまで様々な環境に適応して進化してきました。香りがなくなった場合でも、すぐに順応することは難しいでしょうが、時間をかけて適応し生き抜いていくのだと思います。
とは言え、個人的には、やはり“香りを楽しむこと”を失いたくはありませんね。
 
 

参考文献:有村源一郎,西原昌宏「植物のたくらみ 香りと色の植物学」(有限会社ベレ出版 2018)

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